我々一家は、かつて中国で暮らしていたことがある。まだ次女は生まれていなかったが、長女は当時二歳。外国慣れしている私と違って、妻の方は海外の長期滞在は初めてで、さぞ大変だろうと周囲に思われていたが、実は日本よりもずっと楽だった。食事の時は、店の小姐(シャオジェ)たちが何かと娘をかまってくれるので夫婦で落ち着いて食事はできるわ、保育園は24時間いつでも娘を預かってくれるわで、子供がいても大人の時間を削る必要が実に少なかった。「それは外国人の特権では」というとそうでもなく、私の部下である中国人社員達も、あれやこれやで子供の面倒を社会が見てくれたおかげで、既婚者も独身者も同じように働いていた。それを寂しいというものもいたが、他方で既婚者であることが、特に妻の側の不利にならないという点においては日本とは比較にならないほどの男女同権社会だったように思う。もちろん楽なことばかりでなく、配偶者や子がいるからといって仕事を軽減してもらえないという点においては日本以上に厳しい社会であるのだが。おかげで当時は妻にも仕事を手伝ってもらうことも多く、私の方も楽だった。 日本に戻って来たとたん、この状況は一変する。保育施設は金を出せばないことはないのだが、24時間保育などとても無理。子供を預かってもらう料金が月10万円近くかかっていたこともある。子供にかかる金と手間は格段に増えたのだ。子供が幼稚園に通い出すと、料金こそ下がるが今度は時間の方が増える。日本に戻って来てからすぐに次女が出来たこともあり、今の妻は仕事どころではない。下の娘が来年小学校に上がれば、仕事をするだけの時間も出来るのだろうが、それは三年間隔で子供が二人いたら、仕事の現場から九年間も離れる羽目になることを意味する。仕事が好きな女性にはそれは辛いだろう。